ピエールパオロ・ピッチョーリが、バレンシアガを離れる。2025年に就任が発表されたとき、クチュールの名手がこのメゾンで何を見せるのか、期待を寄せる声がありました。その新章は、実際の着任から約16か月で区切りを迎えました。

ケリングが退任を発表したのは、2026年11月5日。翌6日には後任としてマーティン・ローズを任命し、11月16日付での着任を発表しています。この記事は、退任の速報だけでなく、就任時の期待、発表後の反応、そして残された服をたどるものです。退任の公式発表/後任の公式発表
最初から歓迎一色だったのか。退任したからといって、作品まで低く評価されたのか。Xの投稿、ファッションフォーラム、編集者の批評を並べて読むと、もう少し複雑な景色が見えてきます。写真はシーズンごとに分け、どの服についての評価なのかも追えるようにしました。
まず整理したい、就任と退任の日付
- 2025年5月19日:ケリングがピッチョーリの起用を発表。
- 2025年7月10日:クリエイティブ・ディレクターに着任。
- 2025年10月:最初のコレクション、Summer 26を発表。
- 2026年11月5日:退任を発表。
- 2026年11月6日:後任にマーティン・ローズを発表。着任日は同月16日。
「就任から約1年半」という表現は発表日を基準にすると近い一方、実際の着任日からは約16か月です。また、公式声明は退任を伝えていますが、契約の内情や具体的な退任理由までは明らかにしていません。就任の公式発表/退任の公式発表
就任時の期待は、クチュールをどう変えるかに集まった
デムナのあとに、ピッチョーリ。この組み合わせが大きな話題になったのは、名前の知名度だけが理由ではありません。クリストバル・バレンシアガの造形を大切にすることと、デムナが育てた現代のバレンシアガを引き継ぐこと。その二つを、どんな服でつなぐのかが問われる人事でした。
ケリングの就任発表は、ピッチョーリのクチュールの技術と創造性を評価しつつ、デムナが築いた過去10年の成果にも言及。本人も前任者への敬意を示しています。最初から「デムナをなかったことにする」という説明だったわけではありません。ケリングの就任声明
業界側には、経験ある作り手の起用を評価する声もありました。Glossyの取材に対し、ファッション・文化・ビジネスのコンサルタント、Marissa Andradaは今回の人事を「a true power move」と表現。実績のある創造力を持つ人材として期待を寄せています。これはSNS投稿ではなく、媒体の取材コメントです。Glossy、2025年5月19日
Xに残る、発表当日の高揚感
まずは公式の告知。ケリングのXアカウントは2025年5月19日、ピッチョーリの任命と7月10日付の着任を伝えました。以下は公式発表であり、ファンの評価とは分けて読みたい投稿です。
同日、個人アカウントの@pradapearllは、就任を知って「this is big!!」と反応。短い言葉と連続する感嘆符に、この人事を大きなニュースとして受け止めた様子が表れています。
上の投稿文・日付・URLは、当時のStyle Raveの記事(2025年5月20日)に掲載された埋め込みで照合しました。公式投稿はGazete Oksijenの記事でも確認。表示されない場合は、出典記事に記録された投稿文をご参照ください。個人の一例を、X全体の評価とは見なしていません。
歓迎だけではなかった。就任時の三つの声
ファッションフォーラム「theFashionSpot」の反応を紹介した2025年5月19日の記事には、期待と疑問の両方が並びます。以下は同記事が選んだ投稿の短い抜粋です。
- Marc10:「I can’t wait to see what he does for couture there.」
そこでどんなクチュールを作るのか、待ちきれないという期待。 - pryvli:「I kinda optimistic about it!」
少し楽観的に受け止める、歓迎の声。 - cheapthrills:「This makes no sense.」
一方では、人選の組み合わせ自体に納得しない声も。
引用出典:theFashionSpot、2025年5月19日。日付は紹介記事の掲載日です。個々の投稿日時や、投稿者の購入歴・職業を確認したものではありません。
ここで分かれるのは、才能への賛否だけではなく、その才能を、どのブランドで見たいかという期待です。クチュールの表現を待つ人と、いまのバレンシアガとの相性を心配する人。その距離は、退任時の議論にもつながっていきます。
写真でたどるピッチョーリのバレンシアガ
人事の見出しから少し離れて、実際の服を見てみます。以下はピッチョーリが手がけた四つのショーからの公式写真です。販売時期ではなくコレクション名で整理しています。
Summer 26:最初のコレクション


2025年10月のデビュー後、Vogueが集めた業界関係者のコメントには肯定的なものがありました。Derek Blasbergは会場の温かな反応と色使いを、Vogue FranceのClaire Thomson-Jonvilleは現代的な解釈を評価しています。これは就任の発表当日ではなく、最初の服を見たあとの反応です。Vogueによるデビュー後の取材、2025年10月4日
就任への期待と、ショーへの評価は別の段階です。名前を聞いて想像していたブランド像が、布の量や丈、身体との距離として目の前に現れる。写真ではまず、肩から裾までの輪郭を追ってみてください。装飾だけを見るより、どこにバレンシアガらしさを感じるかがはっきりします。
Winter 26:デムナ以降の顧客との距離


次のプレタポルテでは、評価はさらに入り組みます。Sarah MowerはVogueの2026年3月のレビューで、既存の若い顧客層に向けた表現と、ピッチョーリ自身の強みとの間の揺れを指摘しました。才能を否定する批評というより、持ち味が十分に見えたかを問う内容です。VogueのWinter 26レビュー
ブランドを引き継ぐ難しさは、似せれば解決するわけでも、大きく変えれば解決するわけでもないところにあります。前の時代が好きな人にとっては変化が寂しく、新しい作り手を待っていた人には継続が物足りない。ひとつのショーに、逆向きの期待がかかります。
55th Couture:メゾンの技術と向き合う



2026年7月には、バレンシアガで初めてのオートクチュールを発表。こちらは同じ年のWinter 26プレタポルテとは別のコレクションです。服の輪郭や布の重なりを大きな写真で見ると、日常着のショーとは異なるスケールを比べられます。Balenciaga公式:55th Couture
クチュールへの評価も一枚岩ではありませんでした。WWDJAPANの村上要は10月のコラムで、7月の発表には賛否があったと振り返る一方、続く2027年春夏を高く評価しています。「退任の噂がある」と「服が評価されていない」を、同じ意味にしてはいけないことが分かります。WWDJAPAN、2026年10月4日
Summer 27:クチュールを日常着へ



最後のプレタポルテとなったSummer 27では、手仕事による構造を日常の服へ移す試みが見られます。FASHIONSNAPは白いシャツの立体感、バイアスカット、日本製デニムなどに注目し、クチュールの考え方を日常へ広げるコレクションとして紹介しました。FASHIONSNAPのコレクション評
VogueのMowerも、このシーズンではピッチョーリ自身の個性が現れる場面を評価しています。創業者とデムナ、二つの大きな遺産の間で立ち位置を探す難しさを指摘しながら、作り手の輪郭が見え始めたことを伝えるレビューでした。VogueのSummer 27レビュー、2026年10月1日
「クチュールらしい服」と聞くと、特別な日の大きなドレスを思い浮かべがちです。けれど、シャツやデニムのかたちを変えるところにも技術は現れます。何を着るかだけでなく、見慣れたものをどう作り直すか。その視点で最後のコレクションを見直すと、短い在任期間にも続きがあったように感じられます。ここは作品からの解釈であり、退任の理由を示すものではありません。
退任時の反応は、デザイナーだけに向いていない
退任の公式声明で、バレンシアガCEOのGianfranco Gianangeliは、ピッチョーリがメゾンのクチュールの原点を再確認させたことに謝意を表しました。ケリングCEOのLuca de Meoも、その才能への敬意を示しています。声明に作品を失敗と断じる説明はありません。2026年11月5日の公式声明
人選への疑問と、経営判断への批判
theFashionSpotが選んだ退任時のフォーラム反応を、AOL掲載の転載記事で確認すると、議論の矛先は本人のデザインだけに向いていません。
- Lola701:「He wasn’t the right fit.」
ブランドとの相性には疑問を示しつつ、人選したケリング側にも責任があるという意見。 - Creative:「Kering is the worst group. Absolutely clueless!」
強い言葉で、グループの判断そのものを批判する声。 - grimesisnotmymother:「Management did not do him any favors.」
才能を認めながら、現在の顧客とのずれや経営側の支援を問題にする声。
引用出典:theFashionSpot配信/AOL、2026年11月6日。これらは専門フォーラムから編集部が選んだ例で、世論調査でもX全体の集計でもありません。批判は各投稿者の見解です。
今回確認した就任時の反応には、「何を作るのか」への期待がありました。ここに挙げた退任時の声では、「その人選は合っていたのか」「経営側はどう支えたのか」という問いも前に出ています。歓迎がそのまま失望に変わったと決めつけるより、評価する対象が、服からブランドの運営へも広がったと読む方が実例に沿っています。
なぜ短期間で退任したのか。分かることと、分からないこと
経営面に課題がなかったわけではありません。ケリングの2026年第3四半期の公式資料は、バレンシアガについてレザーグッズが底堅かった一方、プレタポルテとシューズには引き続き厳しさがあったと説明しています。ケリングの2026年第3四半期売上資料
ただし、この説明から「この一着が売れなかったから退任した」「ピッチョーリ個人の責任だった」とまでは言えません。商品が発表され、店頭に並び、顧客が選ぶまでには時間があります。ブランドの業績には価格、店舗、地域、商品構成など複数の要素がかかわります。
同じように、コメント欄の「好き」「合わない」は、販売実績そのものではありません。ショーを見ている人、実際に購入する人、ブランドがこれから獲得したい人は、必ずしも同じではないからです。
今回の退任を読むうえでは、作品への評価、顧客との相性、経営上の判断を分けることが大切です。公式に発表されたのは退任と後任人事。詳しい決定過程は、確認できる資料の範囲では明らかになっていません。断定的な「失敗」「解雇」という言葉より、何が確認できているかを追いたいところです。
後任はマーティン・ローズ。次の始まりも、すでに発表された

11月6日のケリング公式発表によると、後任のマーティン・ローズは11月16日付で着任します。自身のブランドを2007年に設立し、サブカルチャー、音楽、装いの社会的な意味を背景に仕事をしてきたデザイナーです。ケリングは、既成の慣習に挑む視点や新しい世代とのつながりを評価しています。マーティン・ローズ任命の公式発表
この人事によって「元に戻る」と言い切るのは、まだ早いでしょう。新しいクリエイティブ・ディレクターの仕事は、前の時代を再現するだけとは限りません。どんな服を見せ、いまの顧客とこれからの顧客をどうつなぐのか。次の評価も、実際のコレクションを見てから考えたいところです。
約16か月を、退任の見出しだけで終わらせない
就任時の反応を読み直すと、期待は大きく二つに分かれていたように見えます。クチュールの表現を楽しみにする期待と、いまのバレンシアガとの相性を気にする視線。退任時にもその違いは残り、そこへ人事の速度や経営判断への疑問が重なりました。これは今回確認した実例からの読み取りで、全体の賛否の比率を示すものではありません。
だから、「歓迎されて就任し、嫌われて辞めた」という一本の筋書きでは収まりません。途中のショーには厳しい批評があり、最後のコレクションには肯定的な評価もありました。ひとりのデザイナーへの敬意と、そのブランドでの仕事への疑問は、同時に存在します。
服を見る側に残るのは、結局、具体的なかたちです。肩の丸み、身体から離れる布、日常のシャツが別の輪郭になる瞬間。写真を行き来しながら、自分が惹かれるものを確かめる。人事のニュースが速く流れていくときほど、その見方を残しておきたいと思います。
創業者からデムナ期までの背景は、バレンシアガの歴史と特徴を紹介した記事もあわせてどうぞ。こちらは2026年11月4日時点の記事のため、最新の人事は本記事をご参照ください。
出典と掲載について
人事の日付と会社の説明はケリング公式資料を優先しています。批評は各媒体の見解、投稿は個人の見解として分けて紹介しました。フォーラムの引用は紹介記事に掲載された短い抜粋で、日本語の説明は要旨です。取材記事や投稿の全文を転載したものではありません。
Xの原投稿を直接取得できないものは、当時の記事に記録された埋め込みで本文とURLを照合しました。退任時のX投稿は十分に裏付けられなかったため採用せず、確認できたフォーラムの反応を掲載しています。埋め込みは削除や閲覧制限などで表示されなくなる場合があります。
写真:Balenciaga公式公開コレクション画像、Kering公式公開ポートレート。肖像の撮影クレジットは各写真に記載。生成画像は使用していません。情報確認日:2026年11月8日。


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